敷金が返ってこないとき|原状回復の負担区分と請求の進め方

最終更新:2026-07-28

敷金は、賃貸借が終了して部屋を明け渡したときに、未払賃料などを差し引いた残額を返還すべきものと民法に定められています。通常の使用による損耗や経年変化の分は、原則として借主の負担にはなりません。

敷金はどういうお金?

答え

敷金は、賃料などの債務を担保するために貸主へ預けるお金です。賃貸借が終了して部屋を明け渡したときに、未払いの債務を差し引いた残額を返還しなければならないと定められています(民法622条の2)。

名目が「保証金」であっても、担保の目的で預けたお金であれば同じ扱いになります。返還の時期は明渡しの後であり、鍵を返すのと引き換えに受け取れるものではありません。

この規定は2020年4月1日施行の改正民法で明文化されたものです。それ以前の契約についても、同様の考え方が判例で積み重ねられてきました。

原状回復はどこまで借主の負担?

答え

通常の使用によって生じた損耗と、時間の経過による劣化は借主の負担ではありません(民法621条)。借主が負担するのは、通常の使用を超える使い方によって生じた損傷の部分です。

負担区分の考え方(国土交通省ガイドラインの整理)
区分原則の負担
通常損耗・経年変化日焼けによる壁紙の変色、家具の設置跡貸主
通常の使用を超える損傷たばこのヤニや臭い、ペットによる傷借主
手入れ不足による損傷結露を放置して生じたカビ、シミ借主
設備の自然故障耐用年数を過ぎた給湯器の故障貸主

借主の負担とされる場合でも、全額を負担するとは限りません。ガイドラインは、内装や設備の価値が年数とともに下がることを前提に、経過年数に応じて借主の負担割合を減らす考え方を示しています。

たとえば壁紙(クロス)は6年で残存価値が1円になるものとして扱われます。負担割合の算定方法は国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に整理されています。

契約書に「クリーニング代は借主負担」と書いてあったら?

答え

特約があれば直ちに有効というわけではありません。通常損耗の補修まで借主に負担させる特約については、その内容が契約書に具体的に示され、借主が理解したうえで合意したといえるかが問われます。

消費者契約法10条は、消費者の義務を加重する条項のうち、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています。特約の文言だけでなく、金額や範囲がどこまで明示されていたかが確認の対象になります。

請求する前に何をそろえる?

答え

賃貸借契約書、重要事項説明書、敷金精算書、入居時と退去時の室内の写真。この4点がそろっていると、どこまでが自分の負担かを具体的に指摘できます。

  • 賃貸借契約書と重要事項説明書(原状回復に関する特約の記載を確認する)
  • 敷金精算書(費目・単価・数量が書かれているかを確認する)
  • 入居時の室内写真、退去立会い時のチェックシート
  • 退去時の室内写真(日付が分かる形で残す)
  • 敷金を支払ったことが分かる領収書や振込記録

精算書に「原状回復費用一式」としか書かれていない場合は、まず費目ごとの内訳と単価の提示を求めます。内訳が出て初めて、どの項目を争うかが決まります。

話し合いで解決しないときは?

答え

書面で返還を求めたうえで、応じられない場合は裁判所の手続きを検討することになります。敷金の返還請求は金額が60万円以下に収まることが多く、少額訴訟が使える範囲に入りやすい類型です。

  1. 1

    内訳の提示を求める

    精算書の費目ごとに、単価と数量、借主負担とする根拠の説明を求めます。ここでのやり取りは記録に残る方法で行います。

  2. 2

    書面で返還を請求する

    返還を求める金額と計算根拠、支払期限を書いて送ります。内容証明で出せば、いつどんな内容で請求したかが記録として残ります。

  3. 3

    裁判所の手続きを選ぶ

    60万円以下なら少額訴訟、争いが少なければ支払督促、話し合いの場を設けたい場合は民事調停という選択肢があります。

敷金返還請求権の消滅時効は、権利を行使できることを知った時から5年です(民法166条1項)。明渡しの時点から進むため、放置すると請求できなくなります。

よくある質問

Q.退去立会いのときにサインした書類があると、もう争えませんか?
A.署名した内容がそのまま合意として扱われることはありますが、金額や負担区分が示されないまま署名した場合など、事情によって評価は変わります。書類の控えを確認することが出発点になります。
Q.ハウスクリーニング代は必ず借主の負担になりますか?
A.通常の清掃を済ませて退去した場合の清掃費用は、原則として貸主の負担と整理されています。借主負担とする特約がある場合は、その内容と金額が明示されていたかが問題になります。
Q.敷金を超える金額を請求されたときはどうすればよいですか?
A.請求された費目ごとに、通常損耗にあたらない根拠と、経過年数を考慮した計算が示されているかを確認します。内訳が出ないまま支払う必要はありません。

出典

  1. [1]民法(第621条 賃借人の原状回復義務/第622条の2 敷金/第166条 消滅時効)e-Gov法令検索(デジタル庁)
  2. [2]原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)国土交通省
  3. [3]消費者契約法(第10条 消費者の利益を一方的に害する条項の無効)e-Gov法令検索(デジタル庁)
  4. [4]少額訴訟(60万円以下の金銭請求)裁判所
  5. [5]内容証明(サービス内容・料金)日本郵便

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